みをつくし料理帖(全10巻)
2017年8月5日 読書記録第6紀(13.08~) コメント (2)料理だけが自分の仕合わせへの道筋と定めた上方生まれの澪。幾多の困難に立ち向かいながらも作り上げる温かな料理と、人々の人情が織りなす、連作時代小説の傑作ここに誕生!
ずいぶん前に読了したものの、記録を書いていなかったので今さらながら書いておきます。
NHKの土曜ドラマで主役を黒木華が演じると聞き興味を持って、ドラマの1,2回程度を見たところで辛抱たまらず原作に手を出してしまい、ほぼ一気に読み通しました。完結してから読み始めてよかった。
主人公は料理の天才なのですが、次から次へと不幸や困難に襲われて、その都度料理の才と、誠実な人柄で味方につけた人の助けで乗り越えていくお話。よくもまあ、作者はこれだけ様々な困難を思いつくものだ、と感心するほどヴァリエーションに富んだ不幸オンパレード。
例えばジャンプマンガだと、主人公の困難は基本的に「より強い敵」で、主に試合形式で対戦相手がどんどん強くなるにつれて主人公も強くなっていき、いつの間にか主人公が人外になってしまうインフレーションを起こしてしまいがちです。
でも、この話では困難にヴァリエーションが大きいので、主人公の料理の腕がどんなに圧倒的でもあまり単調にならずインフレにもならないところが上手いです。
物語の芯となる主人公の目的の一つが明らかになるのはかなり話が進んでからで、それがやや意外に感じました。どれだけ早く主人公の目的を明確にするかが読者を引き込むポイントかと思っていたので。
もう一つの目的である、「自分の主人の潰れた料理屋を再興する」というのは比較的早いうちに明らかになりますが、それは結局この物語の中では成就しないですし。(巻末の付録で、それが成就したことがほのめかされる)
そこは、物語の王道パターンから外す、というかずらしていることが興味深い。
主人公の恋愛部分についても、当初、主人公に惹かれる2人のいい男、という三角関係図式なのに、うまく捻ってある。
つまり、この物語は主人公に3つのタスクを課して、それぞれのタスク(目的)のラインは王道パターンにひねりを利かせておいて、少しずつ山場をずらしながら組み合わせて最後に3つを回収するという大きな構造になっている。
文庫1冊に短編4話を掲載して文庫書下ろし。作者は当然最初から全体を計算していたはずで(文庫後半につくようになったあとがき的なコーナーでも明かしている)、どういう発想でこういう構造を思いつくのか、不思議になる。
この読書記録は、基本的に読了した日付で書いているのですが、このシリーズを読了したのがいつだったか忘れたので、この記事の日付については適当です。7月中には読み終わっていたはずですが、これを書いている9月3日現在、一番古く設定できるのが8月5日なのです……。
コメント
ちなみに私は原作先でドラマ後なんですが、TBSだったかテレ朝だったかのドラマでは、なんでその配役!?としこたまガッカリして気に入らなかったのに(とくに北川景子…演技うんぬんではなくイメージ的に)、NHKがほぼパーフェクトなキャスティングしてくれて感謝しています。これだわー!って。そして原作の最後にレシピついてて、ドラマでも黒木華が「きょうの料理」してくれて。
…ただあえて言うなら、幼なじみのあさひ太夫役にはそれこそ北川景子のほうが合ってたような(成海璃子でもいいんだけど…)。
★5つ、いただきました!(⬅もはや死語)
ドラマはドラマで語りたいことはあるのです!!
私は後からTBS版の存在を知って、主演のキャスティングで
「ああ、見なくていい感じ…」と思いました。いえ、このキャスティングなら脚本や演出も推して知るべし的な意味で。
私は書いた通りドラマが先だったので先入観があるとはいえ、NHK版のキャスティングはホントに”今考えられるベスト“な配役でしたね!
だからこらそあさひ太夫は残念。成海璃子自身が悪いんじゃないんですが、黒木華の幼なじみ設定で、あさひ太夫のように育ちのよさと遊女の闇を同時に演じられ、旭日昇天の相に説得力を与えられる女優さんは思い当たりません…。
そして私にとってのベスト花魁は、吉原影同心の薄墨太夫を演じた野々寿美花なので(笑)。
細かいところでは、ふきちゃんはもっと幼いイメージでしたが、役者さんの年齢的には間違ってないんですよね、たぶん。
巻末レシピをエンドロールに持ってきたのはよかったですよね。
特に、澪のまま現代のシステムキッチンに立つという意外性がスバラシイ。
……ま、要するに「秋林さんにハゲドウ(激しく同意)」なのです。