「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察
2011年9月18日 読書記録第5紀(10.12~)「鎮痛磁気ネックレス」亭の明察 (文春文庫) [文庫]
マーサ グライムズ (著)
ロンドンから40マイル、このところ首都のベッドタウンとして不動産業者の着目するところとなったリトルボーンの村は、しかし、たたずまいあくまでものどか、もちろんパブもある。村の森から犬が人間の指をくわえて現われたのが事件の発端、警視昇進に照れながら腰をあげたジュリーは、事件を追ってロンドンと村を行き来する。
http://www.amazon.co.jp/dp/4167275317
マーサ・グライムズのパブシリーズ、もしくは警視ジュリーシリーズの第3作。
このシリーズの謎は、本格ではなくて、犯人当てが目的でもなくて、なのでミステリとしてさほどおもしろいかどうかは自信がない。
普通に読んでいて、犯人が判明したときの爽快感みたいなものもない。
じゃあ何で読んでいるかというと、登場する人物たちのキャラクターがいいからではないか、と3冊目にして思う。
繰り返して書いているけれど、とにかく出てくる子どもたち(と動物)の、生意気でこまっしゃくれていて、それでもやっぱり子どもの世界や価値観の中で行動しているところが実に活き活きと描かれている。
また、大なり小なり嫌な奴が次から次へと出てくるのだけれど、これがまた強い印象を与える書き方をされている。嫌な奴ではなくても一癖もふた癖もあるようなキャラクターたちの掛け合いが、また楽しい。
探偵役はシリーズ名にもなっている、ロンドン警視庁のジュリー警視(1,2巻では主任警部)。ジュリーはただひたすら穏やかな性格で、事件の関係者に誠意を持って話を聞いて回る。背が高く、栗色の髪に灰色の目をして笑顔が素敵な紳士なので、とにかく女性はイチコロだけれど、女性を落とす術は笑顔だけな一方、子どもを落とす手練手管はすごい。基本的に大人を信用していない子どもたちが、ジュリーにはコロコロと手懐けられていく。
もう一人の探偵役、第1巻で事件の起こった村に住んでいる爵位を返上した元貴族のメルローズ・プラントがジュリーの友人として彼の捜査を助ける。第1巻では、大学で授業ももち、クロスワードパズルが得意な頭脳派であったのに、2巻以降ではすっかり有り余る金と時間を使ってジュリーの手伝いをする助手役に甘んじているところが、読み手としては少々不満。もうちょっと、二人で丁々発止の知恵の出し合いを繰り広げてくれたほうが楽しいのに……。
それなのに。ジュリーは平民なのに、どんどんプラントに対して遠慮がなくなっていくし、特にこの3巻では冒頭でいきなり、休暇をプラントの屋敷で過ごすのにうきうきと(ではないけれど)荷物を作っているところから始まる……。
いつの間にそんなに仲良しに?!
2人とも40歳前後で独身。ジュリーは各事件ごとに登場する不幸な女性にすぐ惚れるのだけれど、そういう女性はたいてい犯人だったり被害者だったり、様々な理由で彼の想いが遂げられることはない。
プラントも、麦わら色の髪に知性溢れるグリーンの瞳で金縁メガネ(!)というモテ要素満載なのに、そして彼(の財産)を狙っている女性も多いだろうに、好きな女性に上手く気持ちを伝えられなくて独身を続けている。
いいですいいです。キミたちはそうして2人で持ちつ持たれつ独身のまま仲良くしていてくれれば。
そんなわけで、2人の仲良しっぷりが楽しくてシリーズを読み続けています。
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