プールサイド[ラテンビート映画祭]
2011年9月19日 映画鑑賞記録第3紀(09.02~)プールサイド
監督 : マルコ・ベルヘール
出演 : カルロス・エチェバリア、ハビエル・デ・ピエトロ、アントネラ・コスタ
2011年 / ドラマ / アルゼンチン / 87分
2011年ベルリン国際映画祭テディ賞
高校教師のセバスティアンは、目を怪我したと言う生徒マルティンを病院に連れていく。治療後、車で自宅へ送ろうとするが、マルティンは「家のカギを失くし、親と連絡もとれない」と巧みに嘘をつき、セバスティアンの家へ上がり込む。人目もはばからず、裸で部屋を歩き回るマルティンにセバスティアンは戸惑いを覚えるが…。
怪しげな魅力を放つ16歳の少年と、徐々に彼の虜になっていく高校教師。二人の微妙な距離と心の奥の探り合いを、独特のカメラワークであぶり出す異色の恋愛ドラマ。2011年のベルリン国際映画祭ゲイ&レズビアン映画部門(テディ賞)で見事大賞を受賞した。監督はアルゼンチンの新鋭マルコ・ベルヘール。
予告編 : http://www.youtube.com/watch?v=VpAnldMoR5w
(映画祭サイトより http://www.hispanicbeatfilmfestival.com/lbff2011/film_d.html)
上の解説にある「怪しげな魅力を放つ」というのはちょっと言いすぎ(苦笑)。
マルティンは、どこにでもいそうなごく普通の男子高校生です。映画の冒頭で少年の身体の各部がどアップで映し出されるのですが、足の指に生えている毛まで(汗)はっきり映されて、しょっぱなから「ああ、美少年に中年男性が惑わされる話じゃないのね」と思い知らされます。
一方の中年教師も、男子高校生がうっかり惑ってしまうようなオヤジの色気のイの字もない、ただの草臥れたオヤジです。毛髪も心もとないし、体育教師だけれど身体が出来てるわけでもない。
少年がなぜ、この教師が気になり始めるのかは描かれず、ただ、気になって気になって仕方がなくて、下手なウソを吐いてなんとか先生の家に泊めてもらうまでが前半。
先生としては、男子生徒とはいえ未成年を家に泊めるのはバレると大変なことになるので、付き合っている彼女に「一緒に泊まってよ」と電話するのですが、バリキャリの彼女には断られる。
教師も「どうもおかしい」と思いながら何がおかしいのか分からないまま、不安な夜を迎えるのですが、
この前半部分のBGMがまるでホラー映画のように恐怖を煽るので、見ているこちらも、いつ男子高校生が送られオオカミ(?)と化して襲っちゃうかとハラハラしながら見ていました。
(以下ネタバレ)
結局何事もなくその夜は過ぎるものの、少年の下手なウソはすぐにばれて、教師は少年に「どうしてあんな嘘を吐いたんだ」と詰め寄ります。
そのときの少年の台詞がまずいい。
少年ももともとノンケで、おそらく自分の感情をもてあましていて、どうしていいか分からないままに突っ走っている、その困惑がこのひと言で読み取れて、すばらしいなぁと思いました。
二人が決裂した後、とある事件が起こります。
これによって教師の心に大きな傷ができる。今度は教師が、その傷の痛みをもてあまし、情緒不安定に陥っていき、最後にその感情に折り合いをつけるひと言を呟いたところで映画は終わります。
このひと言もまたいい。
多分これが教師の本音であり、やっぱり教師はノンケのままで、でも少年によってかき乱された気持ちや痛みは本物なのだということがひしひしと感じられます。
つまりこれは、「トーマの心臓」なのです。
(ネタバレ以上)
少年と教師の感情の揺れを、少ない台詞と、アップを多用したカメラワークで執拗に掘り下げていく心理描写に、質のいい短編小説を読んだような気持ちになりました。
性的な描写はほとんどゼロで、それでも恋の駆け引きの緊張感が非常にエロティックな映画でした。
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