ISBN:4531081390 単行本 石井 礼子 日本教文社 2004/05 ¥1,950
おもしろい小説の条件のひとつに、「その内容を一言で説明できるか」というのがあるそうです。
その意味では、この本は小説ではないですけれど内容はいたってシンプル。しかも説明するまでもなくタイトルがそのまんま。さらに、そこにいろいろなドラマが想像できて求心力があります。
この本は、ニューヨーク州郊外に住むジャーナリストの著者が、牧場にいる牛と、マクドナルドのハンバーガーの間の無知を埋めるべく、畜産牛の受精からと蓄解体までを追ったルポルタージュです。
著者は、人工授精用冷凍精子の採取を見学したその牛の精子から生まれた子牛2頭を買って、その成長を追うのですが、あくまで観察者として距離を置いていたはずなのに、いつの間にか子牛に愛着を抱いてしまい、当初の目的どおり子牛をと蓄するかどうか、最後まで悩みます。その著者が最後にどういう決断を下すのか予測がつかず、一気に読んでしまいました。
同時に、アメリカの近代畜産農業がどういう状況にあるのか、それぞれの段階の現状がわかって興味深いですし、それぞれの段階で著者が出会う人々の人生も垣間見られて感慨深く、本当に面白く読めました。
この本を読みながら思い出していたのが、一月ほど前に佐世保で起こった、小学6年の少女が同級生に刺殺された事件の、被害者の父親のことです。
自身新聞記者である父親は、「自分はジャーナリストだから」という職業意識のもとに、事件当日の夜に記者会見を行って心境を他の記者やカメラの前で告白していました。
すごい精神力と、職業への真摯な態度に尊敬を覚えました。と、同時に、そんな無理をしたらかえってこの父親が心的外傷を被らないかと、心配にもなりました。
「語る」という行為は、追体験でもありますから。というのは、以前読んだ「記憶/物語」(2003年6月27日付)に詳しいので割愛。(いや、でも自分の感想を読んでもどういう内容の本かわからないよ……)
父親は、その後はやはり人前で語ることができないようで、手記による報告に留まっていますが、その手記の内容もあくまで理性的で、犯人である少女やその両親への理解も見せ、読んでいるほうが辛くなります。もっと怒りや憎しみといった感情を外に出せればいいのに……。
この本の話に戻れば、著者は自分の牛への愛着という個人的感情と、ジャーナリストとしての当初の目的の完遂という理性、そして、取材を通して知り合った畜産業に関わっている人たちへの尊敬の気持ちとの板ばさみから、取材を続けながらも子牛の処理について悩みます。けれど、子牛の肥育は16ヶ月というタイムリミットがあって、さらに一番最後の解体業の取材が一番難航したり……、と、盛り上げ方も上手く、本当におもしろかった。
途中で、この著者が以前動物愛護団体で働いていたことがわかって、「現実離れした動物愛護運動家の話だったのか?!」と心で警鐘がなりましたが、結局最後までジャーナリストとして中立の立場を貫こうという態度が保たれ、そこもポイント高かったです。
お薦め。いろんな人に読んで欲しい本です。
最後に。
えーっと、いちおうBL読みな方にもちょっと「おおっ?!」と思う場面が一か所だけあるので、邪まな気持ちで読み始めるのも入り口としては可かと(ああっごめんなさいごめんなさい/大汗)。「台牛」って初めて知りました。
きっと最後には、まじめに食肉文化について考えさせられるようになると思います。
おもしろい小説の条件のひとつに、「その内容を一言で説明できるか」というのがあるそうです。
その意味では、この本は小説ではないですけれど内容はいたってシンプル。しかも説明するまでもなくタイトルがそのまんま。さらに、そこにいろいろなドラマが想像できて求心力があります。
この本は、ニューヨーク州郊外に住むジャーナリストの著者が、牧場にいる牛と、マクドナルドのハンバーガーの間の無知を埋めるべく、畜産牛の受精からと蓄解体までを追ったルポルタージュです。
著者は、人工授精用冷凍精子の採取を見学したその牛の精子から生まれた子牛2頭を買って、その成長を追うのですが、あくまで観察者として距離を置いていたはずなのに、いつの間にか子牛に愛着を抱いてしまい、当初の目的どおり子牛をと蓄するかどうか、最後まで悩みます。その著者が最後にどういう決断を下すのか予測がつかず、一気に読んでしまいました。
同時に、アメリカの近代畜産農業がどういう状況にあるのか、それぞれの段階の現状がわかって興味深いですし、それぞれの段階で著者が出会う人々の人生も垣間見られて感慨深く、本当に面白く読めました。
この本を読みながら思い出していたのが、一月ほど前に佐世保で起こった、小学6年の少女が同級生に刺殺された事件の、被害者の父親のことです。
自身新聞記者である父親は、「自分はジャーナリストだから」という職業意識のもとに、事件当日の夜に記者会見を行って心境を他の記者やカメラの前で告白していました。
すごい精神力と、職業への真摯な態度に尊敬を覚えました。と、同時に、そんな無理をしたらかえってこの父親が心的外傷を被らないかと、心配にもなりました。
「語る」という行為は、追体験でもありますから。というのは、以前読んだ「記憶/物語」(2003年6月27日付)に詳しいので割愛。(いや、でも自分の感想を読んでもどういう内容の本かわからないよ……)
父親は、その後はやはり人前で語ることができないようで、手記による報告に留まっていますが、その手記の内容もあくまで理性的で、犯人である少女やその両親への理解も見せ、読んでいるほうが辛くなります。もっと怒りや憎しみといった感情を外に出せればいいのに……。
この本の話に戻れば、著者は自分の牛への愛着という個人的感情と、ジャーナリストとしての当初の目的の完遂という理性、そして、取材を通して知り合った畜産業に関わっている人たちへの尊敬の気持ちとの板ばさみから、取材を続けながらも子牛の処理について悩みます。けれど、子牛の肥育は16ヶ月というタイムリミットがあって、さらに一番最後の解体業の取材が一番難航したり……、と、盛り上げ方も上手く、本当におもしろかった。
途中で、この著者が以前動物愛護団体で働いていたことがわかって、「現実離れした動物愛護運動家の話だったのか?!」と心で警鐘がなりましたが、結局最後までジャーナリストとして中立の立場を貫こうという態度が保たれ、そこもポイント高かったです。
お薦め。いろんな人に読んで欲しい本です。
最後に。
えーっと、いちおうBL読みな方にもちょっと「おおっ?!」と思う場面が一か所だけあるので、邪まな気持ちで読み始めるのも入り口としては可かと(ああっごめんなさいごめんなさい/大汗)。「台牛」って初めて知りました。
きっと最後には、まじめに食肉文化について考えさせられるようになると思います。
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